② 大企業だけに恩恵があったことについての考察

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私の感想として、この本のアベノミクスの中の異次元金融緩和によってもたらされた円安が、輸出をしている巨大企業にしか恩恵がもたらされず、むしろ、円安による材料価格の高騰で国内中小企業は利益を圧迫された、というところは納得でした。
残念ながら、当初言われていたトリクルダウンがもたらされず、大企業が受けた利益が下請け企業には恩恵が回らず、また、賃金の上昇も一部にとどまり、結果的に、大企業の内部留保である利益剰余金が積みあがっているのが現在の状況である。
これはアベノミクスの誤算の1つで、ながらく1ドル80円という超円高にさらされてきたグローバル企業は、円高による輸出の減少から身を守るため、為替の影響を受けない現地生産や、アジアなどの賃金の安い国での生産へと生産拠点をシフトしてきた。
このため、急に1ドル120円という円安に振れたからと言って、すでに海外の拠点に建てた工場を撤退して、国内に戻せるわけではなく、思ったほどは輸出の額が増えなかった、つまり国内生産が増えなかったという状況が生まれました。
さらに、円高に対する警戒がある大企業は、たとえ円安になったとしても、またいつ円高に戻るかわからないため、海外での商品の販売価格を下げませんでした。つまり、1ドル80円の時は、日本円で240円のものは海外では3ドルで売れるのですが、1ドル120円になれば日本円で240円のものは海外では2ドルで売れることになります。
結果として、海外での販売価格を下げることができるので、他の外国のライバル企業よりも価格優位性が生まれ、本来なら輸出量が増えるはずでした。
ところが、円高に対する警戒心がある大企業は、たとえ円安になったとしてもまたいつ戻るかがわからないので、海外での販売価格を下げませんでした。
このため、アベノミクス後に起こったのは輸出量が増えなかったということです。量は変わらないですが、海外での販売価格を維持したので、円安になったぶん円換算での輸出額は増加しました。
この円換算での増加分は丸々輸出企業である大企業が利益として享受をしたことになります。大企業が海外での販売価格を下げて輸出量を増やしてくれれば、増えた輸出量の分だけ、国内の下請け会社の仕事が増えるのでトリクルダウンが起こったのですが、円高に戻った時に備えて、海外での販売価格を下げなかった大企業により、円安の恩恵がすべて大企業で吸収してしまい、他にはあまり波及をしなかったという実態が起きています。

 ここでアベノミクスは大企業優遇であるという批判へとつながってしまうのですが、これは、個々の大企業の経営者としては、当然、円高時へのリスクを考えなくてはならないですし、むしろ、それを考えなくてはならないほど超円高を放置して、日本の家電メーカーの壊滅的な状況を招いた民主党政権時代にも問題があったといえると思います。
また、現地生産や賃金の安い国への生産拠点のシフトはグローバル競争が進む世界の中では当然の流れで、政府の政策によって止めようがないことだと思います。

問題はせっかく稼いだ大企業の利益が、内部留保として社内に留まっており、賃金への分配が十分ではなかったり、設備投資が十分ではない、ということなのですが、こちらも、儲かるという確信のある事業がないのに、内部留保ができたからと言って軽率に設備投資をするわけもなく、また、日本の労働基準では1度上げた賃金は会社が倒産しそうな相当な理由がないと下げられないため、1年、2年よかったからと言って、簡単には賃上げに踏み切れないというのも経営者としてはうなずけます。それでも、賞与での反映などはされておりますので、名目賃金はここ4年間増加傾向にあります。

もし、強制的に大企業が設けた利益を分配しようと考えるのであれば、単純に法人税率を上げればいい話ですが、これは実現可能性は低いと思います。
現在、法人税実効税率はアメリカと日本が世界の中でトップクラスの39%という高さであり、韓国24%やシンガポールなどの17%などから比べると高く、ここ数年で日本は29%まで法人税実効税率をようやく下げてきたところです。
世界のグローバル化が進んだ今の世の中では、大企業が本店を海外に移転しないように、また、国際競争力の確保の観点から、そもそも高い日本の法人税実効税率をこれ以上上げることは現実的ではないと考えます。
つまり、アベノミクスが大企業優遇政策だというよりは、世界全体が大企業優遇政策をとっており、世界がある程度足並みをそろえて大企業から税金を取るように変わらない限り日本単独での変更は難しいと考えられます。

格差の拡大は世界的な問題で、一定以上格差が拡大すると、国民の不満が高まり、アメリカのトランプ大統領の誕生、イギリスでのブレグジット、フランスではルペン氏が躍進したりと、政情不安が起こります。
すべては行き過ぎたグローバル化による移民問題とその移民により賃金の低下がもたらされているという不満、そして、富裕層との格差の拡大がメインかと思います。

トマ・ピケティの「21世紀の資本」でいう資本収益率(不動産や株での投資による儲け)が経済成長率による賃金の上昇を上回るため、富裕層の所得の拡大のほうが労働者の賃金の上昇よりも速度が早く、所得格差は自然と拡大する傾向にある、ということです。
そして、これを抑制するには第2次世界大戦のように富裕層が壊滅的ダメージを受けるか、国際的な資産課税や超過累進課税の強化をするしかないのですが、日本単独ではグローバル競争のなかで、なかなか難しいのではないかと思います。
それでも、最近はパナマ文章の流出などにより移転価格税制などによる規制や、1億円以上の有価証券を持つ人が外国に出国するときに、売却したものとみなして出国時に譲渡所得税を課税するという出国税ができたりと、国際間における課税の監視が強化されています。

話がだいぶそれましたが、つまり、日本単独で変更が不可能なことをもって、アベノミクスが大企業優遇政策だと批判をしてみたところであまり意味がないように思えます。

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