④ 実質賃金が上がらない現状の分析

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本書ではアベノミクスの異次元金融緩和によりもたらされた円安効果は大企業だけに恩恵にとどまっているし、むしろ、円安による輸入価格の上昇により、中小企業は材料費が上がることによりむしろ経営は厳しくなり、また、一般消費者にとっても、輸入インフレによる商品の価格の上昇により実質賃金はむしろ低下しているとの指摘があります。このため、一般国民にとってアベノミクスは全く恩恵のないもののような書き方がされております。
しかし、グラフを見ていただければわかるように賃金の減少はバブルの崩壊以来、ずっと続いてきており、特に近年ではリーマンショックによる落ち込みが激しかったことがわかります。平成22年には落ち込んだ反動で少し戻りましたが、その後もデフレ傾向に歯止めはかからず、平成24年の異次元金融緩和により脱デフレの流れができてから、平成25年以降、平均賃金は上昇しております
ただし、これはインフレによる名目賃金の上昇であり、実質賃金としては平成28年(2016年)にようやくプラスになったのですが、それまでは、むしろ、実質賃金のマイナス幅が大きかったという批判もあります。
これについてどう考えるか、ということになるかと思います。つまり、デフレにより物価が下落をすれば、給料の額が変わらなくても自由に使えるお金が増える、ということになり生活は楽になります。しかし、企業は物価の下落により売上高が伸びず、利益が増えないことになります。すると、原資がないので賃金の上昇も抑えられて、消費者はますます、節約志向に陥ります。結果、また、物が売れなくなり、企業は値段を下げてでも売ろうとしてデフレが進む。これがデフレスパイラルです。日本の失われた20年間がまさにこれにあたります。
名目上の賃金が下がれば、たとえデフレにより実質賃金が増えたとしても、賃金が上がったという感覚はなく、景気の向上にはつながりづらいものがあります。また、名目賃金が下がれば、住宅ローンなどの借金を抱えている世帯にとっては、返済の負担割合が増えることになります。住宅ローンを抱えている世帯にとってはインフレが起こって給料が上がってくれた方が返済は楽になります。過去に借りたお金の金額はインフレが起こっても変わりませんので。(これについては後ほど国の観点からふれます。)

一方、今行われている緩やかなインフレ、つまりインフレ目標を2%に設定した金融政策では、それが成功した場合、まず、物価の上昇が先に起こります。賃金の上昇は遅れて訪れるため、その時間差の間に、実質賃金の減少がどうしても起こってします。実質賃金が減少すれば、使えるお金が減ってしまうので国内消費が回復しない、ここを乗り越えて景気拡大が続けられるか、それが肝になってくるかと思います。
さらに、今回は途中に消費税増税があり、一気に景気に冷や水を浴びせることになってしまい本格的な景気回復にはさらに時間がかかっている感じがします。
大事なのは景気が上向き、インフレが始まった後に、賃金上昇が追いつき、国内消費が旺盛になることによって景気回復が一段と強まるかどうか、なのですが、残念ながら現状は、企業が設けた利益を内部留保としてため込み、賃金への反映は多少はあるものの力不足という状況です。ベースアップをするように政府が圧力をかけても、個々の企業は個々の経営判断において賃上げを行うかどうかは判断しますので、国の思う通りにはならない状況にあります。国としては所得拡大促進税制などを設けて、賃金を増やしたところは税金を安くするような政策はしているのですが、経営者が節税のために賃上げをするかといえば、なかなかそんなに簡単に経営者としては賃上げができていないのが現状です。

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