遺産分割問題

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◼相続のトラブル

近年、テレビドラマや小説の影響からか、相続問題と聞くと、被相続人の財産の分捕り合戦のようなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかも知れません。

 

しかし、そうではないのです。

相続問題の解決は遺産の分配という観点ももちろんありますが、本質的には相続による争いである「争続」問題の回避にあるのです。遺産について相続人同士が熾烈な争いが起こると、たとえ裁判で決着がついても双方に禍根を残し、遺産分割が終わっても、アカの他人以上に冷え切った関係になってしまうことも少なくありませんし、場合によってはその後も嫌がらせをしたり、されたりとかえって紛争が拡大することもあります。

 

このような「争続」問題の発生を回避する、この視点で問題解決を考えないと不幸の拡大再生産となってしまいます。いかに「争続」問題の発生を防止できるか、また、不幸にして防止できなくても、より傷が少ない解決方法は何かを模索することこそ、本当に必要なことなのです。

 

かつては日本でも事実上長子相続を推奨する戸主制度がとられ、長男が家産を全て相続する仕組みとなっていましたし、今でも一部の地域では慣習として残っているやにお聞きします。

 

しかしながら、現行民法は長子相続を否定しております。遺産分割協議で相続人全員が同意すればともかく、そうでない限り(法定相続分があるので)そのような遺産の相続は認められませんし、単純に遺言によっても長男に全財産を相続させることは(遺留分があるので)とても困難です。

 

もはや今日では長子相続は過去のものになったと言ってよろしいと思います。このことは、親の面倒を見ている長男(あるいは長女)サイドから見ると、いずれかの段階で相続人となる人々と遺産に関する利害調整が必要であることを意味します。円満な相続関係の処理という観点からは、このような利害調整をいかに適切に、そして可能であれば早期に行うことが大切なことなのです。

 

相談者の方の中には、うちは遺産となるものが少ないから相続問題は起きないだろう、とか、他はともかくウチは仲がいいから大丈夫、と安易に安心されている方がいます。しかし、遺産の大小や被相続人の生前の仲の良し悪しで相続問題が発生するかどうか決まるわけではないのです。

 

なぜなら、相続問題は一面お互いのメンツの問題でもあるからです。「アニキの結婚のときはオヤジは300万円出したのに俺のときは全くなかった」とか、「父は一番下の妹ばかりかわいがって私のことは愛していなかった」等々被相続人の死去を契機として、様々な不満がふとしたきっかけから噴出し、のっぴきならない戦いへと発展することはままあることなのです。

 

どんなご家庭でも多かれ少なかれ相続すべき遺産があり、相続人が二人以上いれば相続紛争が発生するおそれはあります。そのような前提に立って、紛争が起きないよう適切な手段を講じておくことこそ賢い選択なのです。

 

最近では相続問題に関する書籍やインターネット上の情報に接する機会が多くなり、相続対策として遺言書を作成する例が増えてきています。遺言書を作成しておけば、相続財産に関する被相続人の意思が明確になりますから、相続対策に有効であり、作成することは望ましいことです。

 

しかしながら、遺言書を記載しておけば、相続紛争は生じないかというとそうでもありません。

 

私の事務所のご相談される例としても遺言書があるケースは決して少なくありません。遺留分をめぐる対立や相続財産の評価に関する対立から、骨肉の争いとなる例も多く見られます。

 

これは遺言書作成時に予想しなかったような経済情勢の変動や不動産価額の変動によるものもありますが、遺言書の記載のときに配慮が足りなかったと思われる例も多く見られます。

 

このように遺言書を作成する場合にも将来の紛争を見越して適切な内容を記載する必要があり、不完全な遺言書はかえって紛争に火種になってしまうので、注意が必要です。

 

既に相続紛争が生じて調停や裁判という局面になると、お互いに自己の権利の正当性を強烈に主張し、なかなか折り合いがつかないこともままあります。もちろん、遺産分割などの相続紛争は、最後は判決によって裁判所が決する問題ではあります。しかし、判決による解決は、しばしばオールオアナッシングの解決になりやすく、複雑な相続人同士の利害調整という点はあまり望ましいものではありません。

そうすると、仮に調停や裁判になったとしても、可能な限り当事者同士が話し合い、調停の成立や裁判上の和解による解決が望ましいことは言うまでもありません。

 

この観点からすると、ひとまず自分の主張をわきに置いて、相手方の立場に立って妥当な解決方法を考えてみることをお勧めします。相続問題はお金や土地建物などの財産を1円でも多く取ろうという分捕り合戦ではありません。

 

安易な譲歩はする必要がありませんが、一度相手方の立場にたって解決案を考えてみると、案外適切な解決案が見えてくることもあるのです。いかに「争続」問題の発生を防止できるか、また、不幸にして防止できなくても、より傷が少ない解決方法は何かを模索することが大切です。

 

もしも相続財産がお金だけだったとしたら、多くの相続問題は(仮にもめたとしても)もっと早く解決できるのではないでしょうか。

 

しかし、相続財産の中には土地建物の不動産や被相続人の経営していた会社の株式などが含まれており、その価額をいくらにするかという点で、相続人同士の利害が鋭く対立する場合があります。特に不動産や未上場の株

式の価額は単一の算定根拠により簡単に割り出せるものではなく、評価の問題を含むので、その評価をめぐって意見が分かれることがあるのです。

 

遺言があればともかく、遺言がない場合相続人は相続財産全体にたいして法定相続分の割合で保有しているにすぎません。したがって、相続財産中に換価の困難なものがあったり、換価のための評価が定まらないものがあると、解決に時間を要します。

 

こうしたものについては、専門家の意見を参考に考えることが望ましく、当事者同士の話し合いでは話が進まないことがままあります。弁護士はもとより会計士さんや税理士さんといった専門家のアドバイスを参考にしかるべき手順で協議することが解決への早道です。

 

 

 

相続財産について遺産分割協議が整いそうな場合でも、必ず頭に入れておかなければならないのが相続税・贈与税の問題です。こうした税負担を全く考えていないと、せっかく相続した不動産を納税資金のため安価で売却するなどといった不利益が生じるおそれがあります。

 

ある程度解決の筋道がついた段階では、税金が発生するかどうか、発生すると

して誰がいつまでに払うか、自分が払う場合には納税資金をどうするかといった問題を事前に検討しておく必要があるのです。

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